【12】夢のストーリー
ぜんかいのおはなし:
人生における成功のカギは、未来の記憶をつくりあげることである。
自分のいちばん古い記憶を引っ張り出せるだろうか。
ちなみに望月のいちばん古い記憶は、当時住んでいた静岡にあった家のそばの三角形の堀のほうなものに池があって、そこに泳ぐカモを見ている、というものである。いくつなのか忘れたが、白くてぶあついガードレールより背が低かった、と思う。
さて問題。思い出してもらったあなたの記憶は、どれくらい正確なのだろう?
僕らは幼いころ、目に見たその景色をそのまま覚えているのだろうか?
だとすれば。だとすれば、あなたの記憶は、あなたの目から見た景色であるはずだが、たぶん違うだろう。いちばん古い記憶のなかで、不思議なことにあなたは「あなたの姿」が見えているのではないだろうか。
目から見た記憶ではないのだ。
その記憶は、当時の自分のものではない。
では、だれのものなのか?
もちろん自分のものだ。
ただし、いまの自分のものである。
正確にいえば、あなたはその記憶をさっき思い出すときに作り出したのだ。
これは記憶の再生の根本的な誤解であるといえる。
僕らは、ものごとをそのまま記憶したりしない。
すべて記憶は、いったん「色」「音」「におい」「形」「いたひと」「その表情」「顔の輪郭」、そのときの「感情」といったレベルまでばらばらに分解される。
そして、思い出すときに記憶を再合成する。
もちろん再合成の際にはRASさんの検閲を受けているので、95%の情報は捨てられて、5%の「ピュアな」思い出だけが残っている。
僕らは、正確には過去を思い出してなどいない。
過去を思い出しているようでいて、僕らはそのつど新たに記憶をつくりだしているのだ。
記憶は、ずいぶん簡単に改竄される。
都合の悪いことは忘れていくし、都合の良いことだけが脚色されて思い出される。
ならば、未来の記憶をでっちあげることもまたそう難しくはないはずだ。
ひとはだれでも夢を見る。
夢は、ばらばらになった過去の断片が無作為につなぎ合わせられることによって生み出される。ただし夢にはストーリーはない。僕らが見たと思っている夢のストーリーは、僕らが思い出そうとした瞬間に、思い出せる範囲の映像をつないで僕らが即興ででっちあげた代物だ。
「なぜそうなったのか」という前後のストーリーがよくわからなくても、脳は鮮明なイメージをつくりあげることができる。これは重要なことだ。
目標を設定するとき、その目標に裏付けはいらないのだ。
成功に必要なのは、強い感情をともなった鮮明なイメージである。
到達すべきイメージが、あなたの夢やいちばん古い記憶と同じレベルで思い出せるようになったとき、僕らの脳は勝手にストーリーをでっちあげる。
こうやれば成功できる、そういうストーリーを。